大阪の北摂エリアに位置するホスピス型住宅「CLASWELL吹田」。
介護士として働く及川さんには、この仕事を志す明確な原点があります。
それは、かつて自身の「父親代わり」でもあった最愛の祖父をALS(筋萎縮性側索硬化症)で亡くした過去でした。
「祖父は、特別扱いされるよりも、一人の人として当たり前に接してもらえることを望んでいたと思います」
「できないことが増えていく病気だからこそ、今できることを大切にしたい」
物静かで淡々とした語り口の裏側には、家族として難病と向き合ったからこそ辿り着いた、「人と人として向き合う」という強い覚悟がありました。
父親代わりだった祖父のALS発症。
「きっと治る」と思っていたあの頃
それは及川さんの、学生時代まで遡ります。
当時、及川さんの近くに住んでいた祖父。キャッチボールしたり、一緒に遊んでくれた、父親代わりの優しい存在でした。
そんな祖父にALSの症状が出始めます。
当時の及川さんはまだ学生。
「家族からALSのことは聞いていましたが、最初はそんな病気があることも、その症状もよく分からなくて。『そうなんだ、きっとすぐに治るんだろうな』くらいに軽く考えていました。それまでは一人で遠くまで外出できるくらい元気な祖父でしたから、実感が湧かなかったんです」
しかし、病気の進行とともに身体の自由は少しずつ失われ、やがて言葉を発することも難しくなっていきました。
「だんだん病気が進行していくにつれて、本当につらい病気なんだなと実感していきました。でも、祖父は喋れなくなっても意識ははっきりしていたので、文字盤などを使って意思を伝えてくれた。だから、その時もまだ、命がなくなるかもしれない、という実感がなかったんです」
看護師だったお母様が毎日付き添い、自宅での看取りを選択。
祖父自身が「無理な延命は望まない」という強い意思を持っていたため、人工呼吸器はさいごまで使用しませんでした。
ある日、及川さんが学校へ向かう直前、祖父の容態が急変しました。
そして、そのまま穏やかにさいごの時を迎えたといいます。
さいごの瞬間まで「生き切った」、かっこいい祖父の背中が、及川さんを福祉の道へと導きました。

「作業」になってしまっているケアへの違和感。辿り着いた、ご入居者のペースを何より大切にする場所
資格を取得し、介護の業界へと飛び込んだ及川さん。
しかし、以前働いていた介護施設で、ある葛藤が生まれます。
「祖父がデイサービスを利用していた頃、『ケアを作業のようにされてしまう場面があったんだ』と話してくれたことがありました。実際に自分が介護の現場で働くようになると、『もしかしたら今の自分も、同じようなケアをしてしまっているのではないか』と感じる場面が何度もあり、そのたびに祖父の言葉を思い出しました」
本人の思いをゆっくり聞く間もないまま淡々とこなす。
そんな効率重視のケアに違和感を抱いていたときに出会ったのが、CLASWELLでした。
「CLASWELLのことを教えてもらったとき、『ここでは何よりもご入居者のペースを大切にしている』と聞きました。その話を聞いて、『そんな環境なら一度働いてみたい』と思い、面接を受けました」
実際にCLASWELL吹田に入社して驚いたのは、従来の介護施設とはまったく異なる時間の流れでした。そこには、コーヒーが好きなご入居者が、自分の飲みたいタイミングで、好きなようにコーヒーを味わえる、そんな何気ない日常があったのです。
「スタッフ全員が、ご入居者一人ひとりを本当に大切にしているんです。例えば、『外に行きたい』という希望があれば、『どうすればその想いを叶えられるか』をみんなで真剣に考えます。私が勤務している吹田でも、そうした取り組みを日々実践していて、『これがCLASWELLらしさなんだ』と感じています。他の施設では実現が難しい、本当に素晴らしいところだと思います。」

「あえて自分の腕を掴んでもらう介助の形」
ホスピスの現場には、進行性の難病の方が多く入居されています。日ごとに状態が変化していくご入居者を前に、及川さんはケアに入りながら、常に「今の自分に何ができるか」を考え続けています。
「できていたことができなくなっていくのは、ご本人にとって本当に悔しく、もどかしいことだと思います。でも、だからこそ、その人らしさやできる力まで奪うような関わり方はしたくありません。『できることは自分でやりたい』という気持ちを大切にしたいんです。祖父だったら、きっとそういうふうに接してほしいと思うだろうな、といつも振り返りながらケアをしています」
だからこそ、及川さんの介助には独自の工夫があります。
例えば車椅子への移乗や移動の際、体を抱え上げて移動させる方が効率は良いかもしれません。
しかし、及川さんはあえて、及川さんの腕を掴みながらなるべく自身の力で動けるようにしています。
「『ちょっとでも自分の力で持っている、支えている』という感覚を味わっていただくことを大切にしています。できないことが増えていくからこそ、今できることをやってもらいたいんです」
一人ひとりの状態に合わせたケアについて、看護師やセラピストと毎日話し合いながら、日々学びを重ねているといいます。

きっと、祖父が見てくれているから。今日もブレずに進める
「今でもどこかで、祖父は生きているような感覚があるんです。時間が経って、『これからは成長した姿を直接見せることはできないんだな』という実感は湧いてきました。でも、きっと今もどこかで、僕の姿を見守ってくれているんじゃないかなと思っています」
現在及川さんが在籍するCLASWELL吹田は2026年5月にオープンしたばかりの新規施設。まだご入居者の人数も限られており、一人ひとりに丁寧に向き合い、その人らしい暮らしを支えるケアを実践できています。
しかし、これからご入居者が増え、施設の規模が大きくなっても、その想いが揺らぐことはないと及川さんは話します。
「これから人数が増えても、お一人おひとりの想いに耳を傾けるケアは、CLASWELLの一番の魅力だと思っており、これからも大切にし続けたいです。そして、祖父に『頑張っているよ』って胸を張って言える自分でいたいと思っています」
家族としての痛みを知っているからこそ、「一人の尊厳ある人間」としてご入居者と対等に向き合う。
そのまっすぐな想いと温かい手のぬくもりは、ご入居者やご家族に「今日も、いい一日だったね」と思える時間を届けているはずです。






